本当にGTDは判断の先送りを許さないのか?

デビッド・アレンってそんな堅物だったっけ?
インボックスを空にすることは、集めてきた「すべてのもの」を処理することである、と本当にデビッド・アレンは言っていただろうか?うちあわせCast第174回「Tak.さんと処理することについて」を聴きながら、そんな疑問が頭をよぎった。いや、それはGTDの重要な原則であり、言ってたのは間違いない。でも、何か違和感がある。
今この行為、アクションをしないという決定はいいけど、判断しないということはしてはいけないということになっていますね。
うちあわせCast 第174回 Tak.さんと処理することについて 倉下さんの発言より
確かに改めてGTDのフローを眺めてみるとそうなっている。判断しないものの行き先はない。しかし、どうがんばっても方針をきめられないものがたくさんあるとTak.さんが言っていて、倉下さんも同意していたし、その対話を聴いている僕もうんうん、そのとおりだと頷いていた。ここにデビッド・アレンが現れたとして、「何がなんでも処理するのだ!インボックスゼロだ!」と頑なに言い放つだろうか。どうしても、そこが気になった。デビッド・アレンってそんな堅物だったっけ?
僕がGTDを知ったのは、溢れかえる仕事に埋もれていて睡眠時間すら確保できず、休日も返上して働いていたような誇張なく死にかけているときだった。はじめて心療内科に行って、あっさりと「鬱ですね」と言われ、診断書なんて書いてもらっても、どうせ休めないからいらない、と断ったのを覚えている。
そんなときに「何がなんでも!」みたいな論調の本を読めたんだろうか?いや、無理だろう。さんざん無理を強いられる環境にあって、さらに無理を被せていくなんて狂気の沙汰すぎる。あのころは狂気を帯びていたはずなので、今の感覚で語ることはできないとしてもだ。
確認してみよう。
インボックスは定期的に処理し、空にしておかなくてはならない。そうしないとインボックスはすぐにあふれてしまい、その機能を果たさなくなる。
全面改訂版 はじめてのGTD ストレスフリーの整理術
しっかりインボックスゼロの原則について書かれていた。デビッド・アレンはやっぱり堅物だった。もっと悩める人たちに寄り添う雰囲気があったように感じていたのは記憶違いだったか。
処理ではなく見極めだと言われてもできない
実はもうひとつ気になっていることがある。今回のうちあわせCastで取り上げられている「処理」という言葉だ。たしかGTDの各ステップの呼び方は全面改訂版が出たときに改訂されていて、初版のほうではGTDのステップに処理という言葉が使われていた。
初版 | 全面改訂版 | |
STEP1 | 収集(Collect) | 把握する(Capture) |
STEP2 | 処理(Process) | 見極める(Clarify) |
STEP3 | 整理(Organize) | 整理する(Organize) |
STEP4 | レビュー(Review) | 更新する(Reflect) |
STEP5 | 実行(Do) | 選択する(Engage) |
初版のGTDのステップではすべてを集めてきて処理する、というフローになっている。初版の本をもう持っていないので、詳細を確認することはできないが、処理という言葉には実行に近しいイメージがあるので、ややこしい。会社ではよく「あれ、処理しときましたよ」なんて言い方をする。改訂版ではよりGTDの実際に近い「見極める」という言葉が充てられているのは、重要な変更点だろう。
ただ、見極めるステップについての解説を読み進めていると、ちょっと頭が混乱する。先ほど引用した「インボックスは定期的に処理し、空にしておかなくてはならない」では、処理という言葉が使われているからだ。見極めるというのは把握したものに対して完了させることではなく、それらについて必要な判断を下してとるべき行動を見極める行為だ。それでも、Tak.さんが言われていたように「方針を決められない」という悩みは生じる。完了させることじゃないんだよ、判断さえすればいいんだ!と言われてもできない。
すべてが判断してあるんだから、今考えなくていい、安心できるという意味で信頼できるリスト。それがあるから、自分のマインドは水のようにしずかになるのだ
うちあわせCast 第174回 Tak.さんと処理することについて Tak.さんの発言より
たしかにTak.さんが述べられているようなことはそのまま本に書かれている。しかし、ここまで確認してきても、まだなんだか腑に落ちない。本当にデビッド・アレンは今すぐにすべてに対して判断せよ!先送りは許さん!と言っているんだろうか。そんなデビッド・アレンが先送りはある、という前提でキーが設けられているライダー・キャロルのバレットジャーナル本の帯に「充実した人生を送るための秘訣が満載」なんてコメントをどんな思いで寄せているのか?
GTDのフローにない保留トレイ
粘り強くGTD本を読み返してみる・・・あった。あったよ。GTDの先送りルートが。いや、知ってはいたけど、フローに表されてないから、忘れていたんだろう。GTDのフローで示されている見極めたあとの行き先は次の8つだ。
- プロジェクトリスト
- プロジェクトの参考情報
- カレンダー
- 次にとるべき行動リスト
- 連絡待ちリスト
- 資料
- いつかやる/たぶんやるリスト
- ごみ箱
しかし、ストレスフリーの整理術の本文を読み込んでみると、実はここに「⑨保留」が存在するのだ。これはわかりにくい!と感じたので、1つずつひもといていく。
見極めるの章の中で見極める作業のポイントとして、まず行動の必要がないものは「ゴミ」「保留にするもの」「資料」の3つのタイプに分かれることになる、と書かれている。そこで、GTDのフローを見てみると、行動を起こすべき?からのNOの矢印は、「ゴミ箱」「いつかやる/たぶんやるリスト」「資料」となっている。これを見ると、ゴミはゴミ箱へ、資料は資料へ、ということは、保留にするものは「いつかやる/たぶんやるリスト」に入れるんだな、と思ってしまうが、それは間違いなのである。(倉下さんも今は処理したくないと保留するものを、いつかやる/たぶんやるリストに入れるのは違うという主旨の発言をされていた)
行動の必要がないもの | 行き先 |
ゴミ | ⭕️ ゴミ箱 |
資料 | ⭕️ 資料 |
保留にするもの | ❌ いつかやる/たぶんやるリスト |
「整理する」を説明するにあたってデビッド・アレンが「いつかやる/たぶんやる」と「あとで判断する(保留)」は大きく違うと語っている。とりあえずそこに置くような人は、あとで判断することはほとんどないと断じている。いや、もう貴方が堅物なのは、十分わかりましたよ。「いつかやる/たぶんやる」は人生に豊かさをもたらしそうなもの「いつかやってみたい/やらなくてもいいリスト」と表現した方がわかりやすいかもしれない。
見極めるの説明をしつこく読み込んでみると、保留にするものの行き先は「いつかやる/たぶんやるリスト」か「カレンダー」或いは「備忘録ファイル」と書かれている。この時点では「いつやる/たぶんやるリスト」に入れるなとは書かれていないので、そこに入れてしまうことになるだろう。と思ったのだが、気になる記述を見つけた。
今のところは付箋紙に「いつかやるかも」「10月17日に再チェック」などと書いて、あとで選別するために「保留」のトレイに入れておくといいだろう。
全面改訂版 はじめてのGTD ストレスフリーの整理術
わざわざ注釈にも、「整理」までの一時的な保管場所にすると便利とか書かれている。いや、そんなんGTDのフローに表現されてませんやん。でも、これを標準のフローに表現してしまったら「これは何か?」→「よーわからんから、とりあえず保留」と、保留トレイが溢れかえってしまって意味がないから、あくまでイレギュラー扱いなのだろう。でも、すごく生真面目な人にとっては、判断できない!GTDのフローですぐ行き詰まる。自分にはGTDは合わないのだ、となってしまう要因の一つになっているような気がする。
正直なところ、目の前のタスクに追われている人があの分厚いGTD本を読み込むのは大変だ。一方、GTDのフローはネットを探せばすぐ見つかるし、それを元に説明している記事や動画もたくさんある。それを参考に柔軟な人はアレンジして「保留」を作っちゃおう、と考えるかもしれないが、生真面目な人はインボックスをゼロにできない状態に陥って挫折してしまうという悲劇が繰り返される(自分もそう)。でも、実はデビッド・アレンは堅物と見せかけて、こっそり柔軟さを忍ばせている。あの頃の僕がGTDにすがったのは、苦しい人の内実に寄り添う洞察に感銘を受けたからだったのだ。
まだまだ、じゃあ一旦保留トレイに置いたものをどうするのかとか、アイデアの扱いについても気になる記述を見つけたのだが、もうダラダラと書きすぎているので今回はこのへんで。